おまえは踊れるのか。踊ったなんて経験が、あるのか。
手を取られて一歩踏み出したとき、触れた指先から生まれた純粋な驚きはスモーカーにステップを踏ませた。
それはつまづいたような、片足だけつっかかったようなもので、それでも海賊は笑って、手を引いた巨体を見えない曲に乗せた。
「祭りのときは踊るものだぜ」
スモーカーが踏み出しすぎてしまった右足を避けるように、左足をとっと下げ、トラファルガー・ローは体の重みを繋いだ手に委ねた。
帽子の下からのぞく頬は赤らんでいて、つまり酔っ払いというわけだ。引っ張られるままにしていると海賊と一緒に倒れ込んでしまいそうになるのを、仕方なくこちらへ引いてバランスを取る。任務終わりの港は夜の静けさに満たされ、背後の町ではいつもの営みがそっと目を閉じようとしていた。花火があがるような催しも、屋台が並ぶようなフェスティバルも、そこにはない。
「海賊ってぇのは好きなときに酔っぱらって呑気なもんだな」
こちらが残務処理に追われている間に、という皮肉はアルコール臭で返される。
「そうだろう。おれたちは好きなときに酔っぱらうことができる」
引っ張り合う反動で左へまわる男に振り回される。三拍子か四拍子かもわからない、滅茶苦茶なステップ。ホールを踏む気位の高い音など鳴るはずもなく、細かな砂を挟んだ海賊のブーツと、底の厚いスモーカーのそれが投げやりに地を擦る音が黒い海に響く。
「どうせなら、踊ってる方がいいだろ」
スモーカーにはまるでわからない。報酬の取り決めが無事にまとまって上機嫌なのだろうか。小さな嫌味は沸いてくるものの、不思議なほど腹立たしく思わないのは、ひとつの事件が終わった安堵もあってのことだろう。この男と同じく。
あとになって思い返せば、いかんともしがたい顔色を、赤で上塗りしていただけかもしれない。あるいは無理矢理眠るための。
繋いだ手がすべりそうで、握り直すか思案するころ、暗闇の中からぽつぽつと小さな明かりが迎えに来ていた。近づくほどに黄色く、視界がうるさくなる。迎えに浮ついていただけか。
テンポのわからないダンスに巻き込まれ、海賊の気のすむまで回り続けたあと、煙になってもいないのに、足元が浮かび上がるような感覚が残っていた。祭りの明かりに溶けていくように、巣へ帰った男はそれきり姿をくらましている。
白むほど重みをかけられた指先は、血液がひとりでに踊り続けている。
カテゴリー: 小文
あほえろ弟宇NTR
冠婚葬祭のマナーやしきたりなんてものは、どうやって身に着けるんだろう。マナーの本を読む、ネットで調べる、あるいは親や親族に聞く、といったところか。書籍やネットで得られる知識は、地域差が大きくて使えないものも多い。そこそこのコミュニティで昔々から続く、根拠の乏しい暗黙の了解みたいなものが結構あって、結局親や恒例の親戚に頼ることになる。
俺たちの場合、そういった時にアテにできる血縁はいなかった。関係のよくなかった実家を早くに離れて以降、絶縁状態。親類もみな揃いも揃って頭のおかしいのばかりだったから、冠婚葬祭について気軽に聞けるような者はいなかった。だからなのか。新婚の兄の家に「お祝いに来た」とあがり込んだ弟がおかしな行動を取ったのは。マナーやしきたりについて、世間一般の常識すら身に着けられなかったからか。
「何考えてるの、兄さん」
集中しろと、胎内のものをいっそうねじ込まれる。奥を小突かれて口から涎と変な声が押し出される。
どこからどう見たって小柄とは言えない体の荷重が、ほとんど片頬にかかっている。揺らされるのに合わせて布地をごしごしと擦る皮膚はそろそろ剝けそうだった。力の入らなくなってきた手でソファの肘掛を握る。そうしていないと、どんどんずり上がって頭をぶつけてしまうから。
「あっ、ああ、ぅん…ぃあっ、あ、ぁんっ」
下半身から響く濡れた音。変に鼻にかかった自分の声が混ざって気味が悪い。ほどよいやわらかさのシリコンに擦られる腸壁はびりびりと性感を生み、もっと、もっととはしたなく蠢いて仕方なかった。
永く添うと決めた相手とパートナーシップの届け出をするために引っ越した新居。真っ白な壁、新しい木材の匂い、まだ生活感の乏しいキッチン。買ったばかりの三人がけのソファに染みを作っているのは俺だ。ブルーグレーの生地は濡れると汚い色になった。昨日パートナー、つまり夫になったオトコと並んで腰掛けたところ。
熨斗のかかったバスタオルと菓子を抱えてやってきた弟に、どうして玩具を突っ込まれているのか。「何考えてるの」は、こちらの台詞だ。
逃げそうになる思考を引きずり戻すように、中を往復していたディルドが抜かれる。
「あぁぁあっ」
内臓を引き出されるような感覚がはらの中をおかしくする。先っぽが穴のふちをずるんと引っ掛けるようになって、それで頭がイっていた。
ごと、という音につられて目線をやると、ローテーブルの上、俺たち夫婦の門出を祝う真新しいタオルの上に、ローションと腸液にまみれた性具が置かれたところだった。広げられたバスタオルの上には、さながら拷問道具のように、短いもの、細いものから順に、すでに使用して濡れてしまったものと、これから出番を待つご新規が左右に分けて並べられている。昔から弟はそういう奴だった。小学生のころ、宿題をするとき、決まって鉛筆を短い方から順に三本並べる癖があったっけ。何事も順序が大事だ。尻の穴を拡げるにしたって、もちろん、細くて小さいものから始めるのがいいに決まっている。
使用済みが傾いてきた陽に照らされてぬっと光る。とろりと体液をまとった淫猥な道具はもうほとんど左側に並んでいて、それだけの時間遊ばれているのだと突きつけてくる。新しい暮らしの中の一コマを汚してしまったようで、喉に罪悪感が詰まった。そろそろ夫の帰り時間を確認しなくては。
「兄さん、気に入ったのあった?せっかくのお祝いだから奮発したんだけど」
「へっ?」
「ああ、全部使ってみないとわからないよね」
これはお祝いだったのか。そうか、と納得しそうになった後ろ口に、さっきよりひとまわり大きな先端が当てられる。右側に残っていた最後のひとつ。湿った音を立てたそれはまだ冷ややかで、ぞわりと背筋が震えた。ぐにゃ、と広げられる粘膜はもうすっかり綻んでいて、慣れてきた体は圧迫感を上手く逃そうと長く息を吐く。
「ふ――――っ、……っん、ぁ――――っ」
ぐう、と入って来る質量に内臓が押し上げられる。胃が下から持ち上げられる感覚がダイレクトに心臓に響いて気持ちいい。そんなに大きいものに圧し入られたことはない。
「あぁア、き、にいる、わけねぇ……だ、ろっ」
「気持ちよさそうだけど」
そうだけど、そうじゃない。どれだけよくしてくれたって、それはどこまでも道具。ほしいのはもっと、熱のある。
奥をぐり、と押されると意味のある言葉は出なかった。吸った息が止まる。内壁に力が入って、みっちりと疑似の性器を締め上げてしまう。そんなに悦んでも、体温も拍動も返ってこないのに。
「どぅ……ぐ、はす、きじゃ、ねぇっ」
「そう」
どうでもよさそうな声とともに固い音がして、唐突にはらの中が振動した。がくんと頭が跳ねて、指先に力がこもる。
「ぁァああァ――――」
雷に臍を取られたらこんな感じかもしれない。突拍子もないことが浮かぶあたり、だいぶ馬鹿になっている。びりり、びりりと前立腺から体の真ん中に電気が伝ったようになって不自然に戦慄く肢体が止められない。頭の中が痺れて、太ももががくがく揺れる。どすんと重く下腹を占めた快楽は雌のそれだ。吐き出せなかったおとこの芯は情けなく涙を零した。普段の性生活でここまでなることはあまりない。ただ祝いに来ただけの弟に、簡単に堕とされてしまう。
「も、うや、めっ……んァっ、うっ」
「どれがよかった?やっぱり太い方が好き?」
「だからす、きじゃ、アっ、ねぇって」
絶頂したにも関わらず、だらりと緩んだ下半身はちっとも収まらない。それどころかさらに熱を上げて、もっとよこせと疼いている。足りない、命の通わないものでいくらされても。好きなものはこれじゃない。痒みにも似た欲求につられて目線が弟のボトムに吸い寄せられる。膨らんでもいないその合わせ目の中に隠されているもの。通う血が増えると固くなってこの内臓を灼いてくれるはずの、それ。
「じゃあ兄さんの好きなものを教えて」
お祝いにあげるから、と囁かれた言葉が甘く耳に流れ込む。毒のように喉奥に垂れてきた甘言に唾がわく。それをまるで見ていたかのようなタイミングで、床からメッセージアプリの電子音が届いた。スマホは落としていたらしい。横目にちらりとみたロック画面に並ぶ「少し遅くなる」の文字。誰からかなんて開かなくてもわかる。果たしてこれはいい知らせなのか、それとも。
「……っ」
これ幸いと流されてしまいそうになるのをわずか残った理性で唇を噛んだ。これから綴るあたたかい日常を自ら裂くような真似をするわけにはいかない。食いしばった奥歯がぎりぎりと音を立てる。
「ああ、旦那さんのこと気にしてるのか」
「あひっ……!?」
ちっぽけな自制をあっという間に砕いたのは己の乱れた下半身だった。ぬかるんだ孔の具合を確かめるように挿れられた弟の指。さきほどより随分控えめな太さなのに、それが生の人肌だというだけで全身が総毛立つ。ぐちゃぐちゃ音を立てながらわき目もふらず泣き所を押さえられて二度、三度と腰が踊る。散々道具に弄られて快感を引き出されてはいたけれど、こっちの方が余程よかった。
「兄さんは普通が好きだもんね」
普通じゃ考えられないことをしながら弟はそんなことを言う。そうだ、人並みに好き合って、寄り添って、肌を重ねて。絵に描いたような理想の生活をしたい、できるはずだった。それなのに。
「っい、あアぁ、ん、んんっ、ぁ――――」
はらが熱い。溜まったままの余韻がかき回されて、ばちばちとあちこちで爆ぜていく。もっと大きく弾けさせてほしい。イきたい。それには足りない。もっと圧倒的に潰されたい。
「ほら、ほしいもの言って」
「いっ、える、ぁわけ……ね、……んんっ、だろっ」
形ばかりの拒絶が舌の上をすべる。弟にはきっと見透かされている。とっくに頭を裏切った体は直腸を何度も縮ませて弟の指に媚びている。もっと擦って、暴いて、体の中をめいっぱい拡げてくれと卑猥な動きを繰り返す。勝ち目なんかないことは明らかだった。
視界の端にうつった反対の手が、ソファにできた粘っこい水たまりを広げてなすりつける。じわじわと布に沁みていく卑しい願望。「大丈夫だよ兄さん」と弟の声が同じように背中に落ちて、表皮を一枚ずつ侵していく。
「兄弟なんだから、普通でしょ」
「そっ、う、だっ、っっけ?」
「そうだよ、普通だよ」
許しをもらってしまえばもうダメだった。おんなの体みたいに奥がじゅわりと潤んだ気がして、阿呆みたいに開けた口から涎が零れた。
「お、まえのっ……ちんぽ、ほしっ……ぃぁあァあアんっ」
抜き去られた指を惜しむ間もなく、ずぶりと押し入ったのは今までで一番太いもの。灼けた肉の棒に何の躊躇もなくはらを広げられ、吐いた嬌声と一緒に白濁を噴いていた。ばたばたと座面を叩いたものが新たに染みを作っていく。
「けっこんおめでとう、兄さん」
祝いの言葉と共に与えられる圧倒的な快楽。ぎゅうぎゅうと内壁が弟の怒張を締め上げて、浮き上がった血管が感じられる。奥までがつんと突かれるたび腰も背中も小刻みに震えて、電気が走ったようになった神経は焼き切れたようだった。
「あっ、ああァっ、ぁうっ、ぁ゛あっ」
「なんだ、せっかく色々買ったのに、最初からこれがよかったんだ」
「んっ、いいっ、アっ、これがいいぃっ」
「それならそうと早く言ってほしかったんだけど」
無駄な出費だった、と並んだ玩具を見やりながら弟が腰を叩きつける。生身の熱で体の中を擦られて視界が弾ける。何を言われているのかはよくわからなかった。たっぷりと時間をかけて絆された後孔が悦んで、気持ちよくてたまらない。汚した新品の家具の上で、明日からも続く普通の生活。大丈夫、だってこれも普通だから。繰り返される律動で頭の中が塗りつぶされていく。弟からのせっかくのお祝いだ、ありがたく受け取ればいい。
「ごっめ゛んっ、はっ、あ゛っ、あァっりが、とっ」
「どういたしまして」
「っあ゛――――っ」
几帳面な弟だから、兄の望む祝いをちゃんと持ってきてくれたのだ。達してもなお収まらない肉壁を何度も擦られて、どろどろ溶ける下半身と思考。並べられた道具たちを照らしていた陽はとっくに沈んで夜に飲まれていた。
汗かいたから後で風呂借りるね。揺すぶられながらそう言われて、昨夜夫と共に疲労を流した浴室を思い浮かべた。どうしてだか、ますます熱があがった気がして、いまだ固く張り詰めた弟のものをはらの奥に誘い込むようにして抱きしめた。
マナーがどうとか、なんてことより、相手がよろこぶものを贈るのが普通のことだろう。どうせ暗黙の了解が大きい分野だ、知らないしきたりを気にしたって仕方がない。冠婚葬祭にきっと正解なんてない。
星が落ちた駅で手を振ります
「さようならを」
停車駅で扉は開かなかった。
「さようならがねぇと、降りられない」
読んでいた本から顔を上げた青年は親切そうには見えなかった。ルフィのまわりには自然と世話焼きが集まる。皆、行く道を遮らない程度にあれこれと心配してくれる。彼はそういうのとは違うと思った。眉間にシワが寄っているし唇だって尖っている。ルフィと違って電車が走っている間も寝ていないのだろう。隈が濃いやつはたいてい不機嫌だ。だというのに、話がしたいと思った。たった今会ったばかりで、さようならはないだろう。
「じゃあ、まだいいや。次の駅でも構わねェし」
真っ黒な髪が揺れていた。どこか窓が開いているなら最悪飛び降りればいい。視界にいつもいる前髪とも、兄の燃えるような髪の黒とも違った。ロビンの、インクをこぼしたような長い髪とも。例えるなら、蛍光灯を反射する車窓の向こう、深海にも見える星空。星がずっとずっと吸い込まれて遠のいていくような、底のない色だと思った。
「そういうわけにはいかねェ。ずっとは乗っていられないからな」
照らされることもなく輝く月の目玉だ。両耳で星が瞬くみたいなピアスが音を立てて、ひとりで宇宙みたいな奴だと思った。
「お前は?降りねェのか?」
「おれはまだ。さようならを言いたい奴を待っているから」
「じゃあおれも待つ!」
隣にどっかと腰かけたつもりだった。不思議座席はなんでだか人ひとり分あけてルフィの尻を落ち着かせた。おかしい。とんがっていた唇の端がふふと上を向くのがわかった。三日月みたいな横顔。
「お前の仲間はもう降りたぞ」
「えっ、そうなのか!じゃあおれも降りねェと!」
胸がそわそわした。まだ乗っていたい。なのに降りなければと急き立てられている。右と左で分かれたらだめだろうか。不思議電車なくらいだから、もしかしたら不思議分身ができるかもしれない。
ジリリリリとベルが鳴る。青年が顎で扉の方を促すのにつられて足が動く。右手だけつり革に残すとそれはびよんと伸びて、だけど彼を掴むことはできない。さようならを言いたくない。
「降りるべき駅で降りた方が身のためだ。さようならを」
唇を噛んだ。別れを望む顔は優しい。
「いやだ。さよならしたくねェ」
「海賊王サマはわがままだな」
当たり前だろう。誰よりも自由なのが海賊王なのだから。だけど自由とわがままは別のものだと教わった気がする。誰に?
「わがまま言いてェときだって、ある!」
「理解はするが、今じゃねェな」
じゃあいつだと言うのだろう。発車を知らせる音がけたたましく鳴っている。じいちゃんに追いかけられるときの圧に似た、大きななにかが迫っているのがわかる。彼はいつかその時は来る、と言った。ここぞ、というのは、腑に落ちるように、ハマるように、「来る」ものだとルフィはもう知っている。そうだとわかる程までに、長い道のりを旅してきた。もうあまり、通りすぎた駅のことは思い出せないけれど。
「いつか来るんだな」
右手は戻した。
「いつかな。それまで」
「さよならだ」
「さようなら」
ベルが叫び続ける中、扉は開いた。湿った夜が勢いよく入り込む。吹き付けるそれをかき分けるようにして踏み出した。ちらりと振り返れば、彼は開いたページを押さえながら見送ってくれていた。吹き飛んでしまいそうな手を無理矢理振った。またな、宇宙!
間もなく発車します。
自動で閉まる扉に背中を押される。そこに駅はなかった。踏みしめ損ねた足がずんと落ちる。
駅がねェぞ!トラ男!
不思議駅だと叫んだ声は出ていなかった。前にナミに連れていかれた、高所から落ちるアトラクションだ。ふわりと尻が浮く心地は一瞬で、すぐに重力がルフィの体を地面に叩きつける。どっと背中のリュックがのし掛かる。
「おい、大丈夫かルフィ!」
ウソップが人混みに流されまいと踏ん張っている。発車のベルとともに、車内になだれ込む人、人、人。うかつにもど真ん中でへしゃげてしまったルフィを避けるでもなく無理矢理乗り込んでいく。やっぱりもっと早く起きるべきだった。この電車に戻されたら朝練に間に合わない。人と人に挟まれたリュックが乗車に巻き込まれる。打ち付けた鼻をさすりながら流れに逆らって右手でつかんだものは。
「おい」
読んでいた文庫本を引っ張られた不機嫌な顔。ルフィより少し背の高いところに、沈まない朝の月がふたつ。今だ。確信が生まれる。
「さよならは全部できたか?降りるだろ?お前」
「なんっ……だ、てめ!」
同じようなリュックの背中ごと引っ張り出す。怒った顔は宇宙なんかじゃなかった。どこの学校だろう。部活は?何年生だ?彼についてなにも知らない。なぜかわからないけど、無性に話がしたかった。それには、なによりも、まず。
「おれはモンキー・D・ルフィ!はじめまして、コンニチワだ!」
呆気に取られた目がまんまるになって、ルフィはしししと笑った。青くなったり緑色になったり忙しいウソップがブルブル震えている。ベルは鳴り止んでいた。朝日を浴びた車体がすべり出す。明るいホームで夜色の髪を揺らした彼は思いきり顔をしかめたのに、電車を振り返らなかった。
「おれと友達になってくれ!」
右手は握手の形にした。もう手は振らない。さようならは必要ないから。
文庫本の黄色いカバーに、縮めて呼びたくなるような名前が書かれていた。おそろいのDを真ん中に置いて。
レインボーメリーゴーランド
イエロー、ピンク、オレンジ、パープル、グリーン、ネオンがぐるぐるまわる。気分がよかった。ダクトから吹き出す脂の煙、靴底のぬめり、かろうじて生きている骨と皮の手首。遠くから悲鳴のBGMが流れて、悪趣味なアトラクションだがこれがこの街の常だ。ダストボックスは半開きで逆さまに突っ込まれてる奴の足がはみ出している。行儀が悪いからちゃんと畳んでやろうかと思ったけど、斜めになった蓋の上で猫が寝ていたからそっとしておいた。可愛い猫ちゃん。ネオンで彩られたピンクに黒ぶち。緑色の缶を煽るとことさらにグルンと目がまわって右足がヘドロを踏んだ。曲がり角の向こうで派手にガラスが割れる音がして、せっかく気持ち良さそうにしていた猫が飛び起きてしまった。しゃーない、あの足をやっぱり畳んでやろう。三本だか四本だかに見える革靴をつかもうとして距離感がつかめず空振り。
「なんで酔ってんの」
ポケットにいれてた方の腕を弟がつかんで危うく転びそうだったところを引き戻される。
なんでって。わからない。薄いアルコールは喉を潤すことすらできないのに。
「飲む?」
ちゃぷちゃぷと缶を揺らしてやるといらないと返された。真面目だ。もう仕事は終わったんだから、付き合えばいいのにな。素面で事務所まで帰れるお前の人間性が信じられないわ。ポケットの中にはさっきニンゲンの頭を吹き飛ばしたものが入っていて、ほとんどはペイント弾が入っている。仕事といったって、半分は遊びのようなものだ。ルールは簡単、子どもでもできる。かわりばんこに引き金を引く。外れたらバーン。どうせ終わる人生なら、最後くらいド派手な色にまみれて散ろうぜ。俺か弟がバーンになればめでたく生き延びることだってできる。ルールを説明するとき実際に見せてやったからTシャツが無秩序に塗ったくられてしまった。まぁそういうデザインに見えないこともない。
「重いんだから、歩ける程度にしろよ」
一応仕事モードは解除しているらしくネクタイはさっさと帰宅している。黒いワイシャツには染みひとつない。今日も最初でバーンだったから。お天道様はちゃあんと日頃の行いを見ていて、大概一発目でサヨナラできるようにしてくれている。ありがたいことだ。感謝は炭酸で胃に流し込む。
「歩けるにきまってんだろぉ」
一歩踏み出した途端に踵が滑る。足場が悪い。猫がどいたどころに手をつくと重みで蓋が押し込まれて、はみ出ていた足がおかしな方向に曲がった気がした。弟の舌打ちが聞こえる。昔っからこいつの舌打ちは驚くほどよく響く。べろの形が綺麗なのかもしれない。
「なぁキスして」
死臭のするゴミ箱にもたれて缶のビールごと腕を伸ばす。すぐに引っ張られて、歯が当たって、痛ぇと言う暇もなく後頭部がさっきの猫のいた場所に叩きつけられた。白く規則正しく並んだ歯の間からぬるついてざらついた生身が這い出てきて、唾液が混ざる。酒臭いって口の中で言われている。呼気を吹き付けるように息を吐いてやったら舌を噛まれた。がぶりと。
「痛い痛い痛い」
「うるさいよ酔っぱらい」
「なぁトイレどこ」
「事務所に帰ればある」
「せっかく気分がいいんだからよ〜、寄り道するだろ〜」
青筋立てていてもキスしてくれるのは、そうしないと動かないって知ってるからだ。俺の方が重いし。一応連れて帰らないと、大事な跡取りだし。かわいそうな役回りの弟が怒ってると愉快になってしまう。それは正直に顔に出ていたらしく、さっきより大きな音で舌を打った弟がつかみかかってきた。あっという間にダストボックスの蓋とコンニチハだ。右手にまだビール、左手はポケットのままなもんだから、乳首がシャツ越しに擦れた。雑にチャックを下ろされてちんこを取り出される。うひゃひゃって裏返った声で笑った。
「ひっ、おいおい、外ですんの、あっ、あうん」
「うるさいさっさと出せよ」
この手に擦られるとひとたまりもない。あっという間に勃起して血管が浮く。優しさのひとかけらもない扱き方に腰が蕩ける。下腹を押さえられて、想像していたのと違う感覚に襲われて。猫みたいな気の抜けた声が涎と垂れる。待てって、トイレどこって聞いたけどよ。缶を取り上げた弟は飲み口をちんこの先っぽに引っ付けた。嫌だって口にしても止まらない。鋭利なアルミが鈴口をくすぐってヒヤッとする。大事なところ千切れたらどうするんだよ。そう思うとおかしくなって左手を出した。
「な、っあ、やる?」
「いいけど。それ、まだ残ってるから、兄さん当たるんじゃない」
バーン。弟の声が耳たぶを震わせる。ちんこ丸出しで脳みそも飛び出た巨体がそこの足の男とお友だちになってしまう。待てよ男とは限らない。革靴とスラックスの感じからして、野郎だとは思うけど。ヒヤヒヤすると余計に勃った。
でもきっと当たらない。俺と弟はいつも当たらない。一番下の弟は四年前に当たった。初仕事だった。妹も姉も、別の弟も。お天道様はぜんぜん見ちゃいない。三回目くらいで当たったのもいて、紫色の脳みそは思っていたほど派手でも可愛くもないことを知った。
親指でてっぺんをグリグリされて腰が跳ねる。狙いが定まらなくて、もしかしたら当たるかもしれない。さっき見送ったばかりの虚ろな目。
「へんな、かおっ、して死、んだなアイツ、ははっ」
「そうだね。兄さんも変な顔だったよ」
「へっ?」
「兄さんが死んだとき。ピースしてた。最悪」
尿意と射精感で腹がかきまわされている。なんだっけ?俺が死んだとき。うまく考えられない。湿った音が往復している。
「アンタはだれ?天元」
缶の中で踊る水音にも刺激され、括れをごしごし擦られたら完敗だった。
「ぁっ――――」
下品な音は当然飲み口におさまるわけもなく、弟の手と俺のボトムを濡らしながら地に落ちてヘドロと混ざる。そんなに飲んだっけというほどに止まらない。膝が笑っている。ピンク、イエロー、オレンジ……頭上のネオンが足元でまわる。満タンになった缶はあっけなく捨てられて、じょろろっとダストボックスにかかった。向こうの方からも誰かの喘ぎ声が聞こえている。留まることなくまた茎をいじられて、へこへこ腰が揺れる。
「だめ、だめ、でるっ」
靴の中で爪先に力が入って、しっこが止まりきる前にザーメンが出た。ぞくぞくぞくと吐き出した快感が背中を這い上がる。あー、あー、とあほみたいな声を垂れ流しながら全部出しきって、天にも昇る心地。
「で?やる?」
俺の手を包んだ弟が米神にそれを押し付ける。アンモニアの臭い。生きてるんだか死んでるんだかわかりにくい臭いだ。まぁいいか。死んでるなら。自分は何人目の天元だったか、思い出そうとすると違うシーンばかりが流れる。いつもだ。一番下の弟は暴発で死んだ。手入れが下手だったから。妹と姉が当たったものは、俺が込めた弾だった。俺と弟はいつも当たらない。当ててほしかった。いつの間にか例の足をつかんでいた。よく見るとかなり大きな足だ。ヘドロにまみれたスニーカーと同じサイズの。次は当たるかもしれない。
ニャーン。
猫が片足に懐いていた。なんで戻ってきたんだろう。この蓋の上がよほど気に入ってたのか。
「猫が驚くから」
そう言うと弟はそれを元あったところにしまった。排泄も射精もおわったものがチャックの間でしおしおとうなだれている。最悪だ、せっかくいい気分だったのに。濡れた服が気持ち悪い。せっかくお洒落にリメイクしたシャツも。
どうあがいたって、俺と弟は当たらない。当たらなかった。
「お前、きらい」
「へぇ偶然、俺もだよ」
「じゃあキスして」
イエロー、ピンク、オレンジ、パープル、グリーン。蛍光色のネオンだけがまわっている。弟の唇に乗ったままの唾液が反射して、虹でもかかっているみたいに見えた。
スマホからテスト投稿
🐯を宝箱に入れて「よくやったなぁ、ろぉ」と💋さんが笑った夢を見た朝、クルーがひとりいなくなった。まだ新しい艦もなく、陸で療養していた一味はほうほうのていで全員が揃ったあとだった。島をスキャンしてみても姿はない。あやまって海に落ちたかとシャチが潜ってくれたが見つからない。一味を抜けたいということなら構わないが、ハートのクルーは一言もなしにキャプテンのもとを離れるとは思えない。手がかりもないまま夜を迎えると、🐯は似たような夢を見た。翌朝またひとりのクルーが見当たらない。治癒していない体を押して、範囲を広げてスキャンするも結果は昨日と同じ。そうやって、💋さんの夢を見るたびに、ひとり、またひとりとクルーがいなくなる。スキャンを使う🐯の体力も削られていくばかり。ある朝起き上がれないほどの疲労感とともに、燕島の二つとなりの島から仲間になったクルーがいなくなった。かわりに、彼がいた土地にしか生息していない植物が。まさか。ある可能性に思い当たるも検証のしようがない。眠るのをやめてみるのはどうかと眠剤を飲むものの、くたびれはてた🐯は寝てしまう。そしてまた💋と宝箱。指一本動かすのすら億劫な朝を迎えると、とうとうシャチがいなくなった。かわりにかつて過ごした友人の家にあった発明品のひとつが。そんな範囲までroomを広げられるはずはない。そう考えるものの今までにない疲労感がそうであることの証明のようにも思えた。とうとうジャンバールだけになり、だがジャンバールだけは消えなかった。なぜ。
そのときちょうど島を巡回で訪れた🚬と出会い、船に乗せろと🐯は迫る。
みたいなとこから始まれ。
相互さまに差し上げたクリスマスおとうとう
ガシャン!
テーブルの端、天板からちょうど半分はみ出ていたワイングラスのプレートが、揺れた拍子にバランスを失い、そこへとどまっていられなくなって、中のロゼを斜めにしながらするちと落ちていった。床に散らばる透けた赤。
隣に立てたイーゼルの、大きなカンバスを抱きしめるようにして丸出しの尻を後ろから揺すられていた俺の目にはスローモーションで見えた。
ガラスが傾きながら落ちていくのって綺麗だな。いちいち色んな角度で光を反射して。ガラスはいい。割れても美しいし、華やかにも、はかなげにも見えて、どこか攻撃的だ。
そんなことを考えていると、俺の顔をカンバスに押し付けていた弟の手に力が籠る。ずる、ずる、と麻の目に擦られる頬がそろそろ痛い。
「だめだよ、ちゃんとお祝いして」
兄さん、と呼ぶ声とともに、ぱんぱんに張った弟の陰茎が一段と腹の奥を抉ってきて、ああっ、と声が飛び出る。開いた口からだらりと出た舌が、油絵具で描いた唇を、舐めた。
バリン!隣からはまたひとつ、グラスが落ちる。殺されたのはピンクのシャンメリー。
「あっ、あんっ、うぅぅ…ん、んあ、んっ」
「そう、上手だね兄さん」
伸ばした舌で、乾いて硬くなった絵具の唇に口づける。なるべく恭しく、浅ましく見えるように。ぴちゃぴちゃとわざと立てた唾液の音をかき消すように、アナルが負けじと濡れた声を上げて弟のものを咀嚼した。ああ行儀が悪い。でも気持ちいい。
また、グラスが落ちる。ばしゃん、ごり、パリン。厚みや形によってさまざまな音を奏でるそれは毎年のように俺と弟の耳を楽しませてくれた。
隣の家のベランダに飾られたイルミネーションが、リズムを取るように赤、青、白、と順序良く光って、窓から入り込むおこぼれを割れた破片が反射するのが、床を万華鏡のように見せていてよかった。
クリスマス、誰かの誕生日、そういった特別な日には、うちにいた大人はいつもガラスを割る音を響かせていて、毎年それを聞いて育った俺は、これは祝福の音だと、ずいぶん大人になるまでそう思っていた。
だから、こういう特別な日にはそれを鳴らす。鈴なんかより、よっぽど清廉な音。ハンドベルでも始めるみたいに、グラスを並べて。色とりどりの飲み物を注ぐ。別に俺たちが飲むわけじゃない。毎年この日のために描いた、赤ん坊を抱くマリア様に捧げるものだ。正しいクリスマスの祝い方なんか知らないけど、奇しくもそれは弟の誕生日で、同時に母の命日でもあるから。こうやって、弟を産んでいただいてありがとうございますって、母さんに感謝のキスを送りながらめちゃくちゃにセックスする。
「あう、あぁっ、ぁー…っ、ひ、もちぃっ…」
尻を掴んで広げた弟が、もうこれ以上はという限界まで入り込む。俺のはしたない器官をすりつぶして、擦り上げて、奥の子宮の口までこじ開けながら、何度も何度も入ってくる。粘膜がぞりぞりと削られてねちゃりと音を立て、もうどうやっても気持ちよくて、俺はますます聖母をかき抱きながら背中を震わせた。
もうすぐ。もうすぐ弟の種が注がれる。俺をお母さんにしてくれる熱い迸り。はやく、はやく。
弟の動きに合わせて腰を突き出すと、ぶくっと服れた弟のペニスが一番奥で爆ぜた。ぐ、ぐ、と弟の喉が鳴る。
「ひ、ぁあぁん!」
愛しい愛しい男の楔を腸壁がぎゅうぎゅうに抱きしめて、どろどろの白を胎内に浴びると、脳みそがブツリと焼き切れて視界が光った。涙の滲んだ目に、床で乱反射する虹色だけがちかちかと見えて、ああ、神聖な夜。
「あは…たんじょ、び、おめでとう」
後ろを向いて、ちゃんと弟の顔を見て告げた。
弟は俺の方を見ることなく尻から性器を抜く。竿に絡まったいろいろを俺の太ももで拭いて、下着とボトムを整えて。そうして悦びに引き攣る兄を見下ろして細い目で笑った。
「俺、誕生日じゃない」
母さんの、ただの命日だよ。
ひゅうっと吸い込んだ酸素が大量に入って、今度は赤くなる世界。テーブルにまだ生き残っていたグラスを掴んで、カンバスに叩きつける。それを見つめる弟の、慈愛に満ちた眼差し。
「神様に迎えられておめでとう、母さん」
祝いの音と、乱れず光る赤、青、白。
サラスモ×ロ
「ダメな七武海だな、こんなことして」
一体どんな顔でそんなことを宣うのか。
だがその表情をまともに見ることはできない。今あの赤銅と目が合ったら出てしまう。女の胎に注ぐことを許されない濁流は、子をなせば乳になる血流がふんだんに巡る乳房に慰められ、尿道から噴いてしまえば喉を通って胃酸に焼かれる。
「ぐっ……う、あ、はな、せっ」
「いつ見ても立派なモンだな、あつい」
「ぁあ、あっ」
乳房と同じ白さの豊かな髪を揺らしてスモーカーは鼻を鳴らした。
「大丈夫だ、比べてないから」
当たり前だ、その辺の粗チンと比べられてたまるか。だがおれでない男が正当にこの女への挿入を認められているのだろうかと想像すると臍の下がなぜだか切なくなって、咥えさせられた女の指を食いしめた。ちがう、そっちじゃないだろう。
笑わない聖母は口と乳房で男根をあやしながら、人の直腸に埋めた長い指でこちらにしか存在しない性感帯を容赦なくいたぶる。視界が、曇る。男のおれより厚みのある舌が亀頭を包んで撫でまわす。
「や、めろ、うっ、でるっ、で、……」
「一丁前に。じゃあこっちは休憩だな」
ずる。ぬめりと共に後孔の指が引きぬかれ、途端に射精感が遠のいてしまう。今にも弾けそうだったのに。幾度かの共寝で躾けられた成果だった。そこだけの刺激では射精できないのに、やわらかな双丘を押し退けて赤い口腔の粘膜が根本までを収めてしまった。食べ物を啜るより汚い音を立てて、嚥下のときぐいと動くところまで亀頭を誘いながら幹を下で扱かれる。睾丸が張り裂けそうで今にも押し出されそうなのに、蓋をされたように途中でせき止められる。
「ふ、うあっ、あ、ぁああ」
出せないと知っていて、やさしかった胸とは別人のように暴き立てようとする口腔。どうにかしてくれと腰ばかりが格好悪く前後に振れて、泣きそうなほど情けなかった。頬の粘膜に押し付けられた鈴口が口づけするようにはく、はく、と蠢いているのがわかってしまう。尾てい骨が重く痛んで思い切り突き上げたい衝動を必死にこらえた。
「たのっ、たのむから、も、だした…っ、ぁ!あー……」
カップに残ったラテの泡を啜るようにひと際長く吸い込まれ、閉じた瞼に光が散る。びく、びく、と二度震えたおれの腰を撫でて、スモーカーはようやく口を離した。
「だめ、これはおまえの口じゃないから」
膨れた唇の零した台詞に突き落とされ、まとめた三本の指に突き上げられる。安堵のため息は吐き出す間もなく鼻腔に戻り、声にならない淫靡な空気に変わった。
的確に前立腺を撃ち抜かれて喉が不格好な音を立てる。なりを潜めていた射精感がひといきに押し寄せて、陰嚢が引き攣れ、それは止めようもなく道を駆け上がってくる。
だめだと首を振るしかできないおれを真正面から両目で捉えて、スモーカーは鎖骨の中央をとんとんと指した。ここならと許されている。もうその手は幹を支えておらず、それでも勃ちつづけるペニスが的など絞れるはずもない。とっさに自分の手を出したのに、やわくそれを制止され、反対の手で内側から弱いところを抉られながら必死に腰を固定した。
「あっあっ、うー……だっ、でるでっ……るっ、あぁっ」
薄桃色の爪がさっき示した点を凝視して、そこにだけ、粗相をするなと骨盤を叱咤し、あとは中の腫れを押し込む指先に導かれるまま。白い肌を汚す白。乳房にも口の中にもゆるされず、その肌の表面にだけべとりと逐情した。
まだ指も抜かれないまま、反対の手でそれを塗り広げながら、女は見上げた。
「気持ちよかっただろ?」
「……っかった、けどだ」
「ほかの男が私に挿れる想像をしただろう。ここ、とても締まった」
言わないでほしい。涙が零れてしまわないように下を向かないおれの顎を伸びあがって舐め、スモーカーは満足そうにまた尻の中を探った。
「うあ」
「じゃあ続きな。こっちはまだ物足りなさそうだ」
「じゃあその妙な設定をやめろ」
「嫌だね。なかなかに楽しい、不倫ごっこ」
最悪だった。おれですらたまにしか許してもらえないのに。大きくて白くやわらかな、炊き立てご飯の蒸気のような女の体内に、だれかが日常的に入っているのかと想像しただけでぐちゃぐちゃの感情が体の制御を失わせる。これっぽっちも楽しくないのに、女はこれを続けると言っていそいそと服を脱ぎ始めていた。シーツの向こうに、女がつけるにせものの男根。いやだ、本当はおれが挿れたい。それでも手招きされるとのこのこ近寄ってしまって、またいいようにされるのだ。おれの女でないのに。
「そんな顔するなよ、坊ちゃん」
「くそ、その呼び方やめろ」
「おいで、悪い七武海さん」
顔を押し付けられたたっぷりの乳房の先の突起より、女の手が摘まんでいるおれの乳首の方が気持ちいいだなんて。さっきまで埋められていた腹が寂しいと疼くほどには、この指も唇もおれの女。
スモロF
痛いと言ったらどの口がと詰られた。額の縫い傷を狙った足は大きな手のひらで掴まれ、踵の骨を砕かれそうなほど。
「もう出たって言ってんだろ」
滲む視界を隠すのも腹立たしく、自分を取り押さえる男をそのまま睨む。口ばかり負けじと強がるその姿勢は男を逆上させるだけなのだと、何度も言われてはいるが、じゃあどんな顔をすればいいというのか。
「まだ出るだろ」
そのまま足首を大きく上に広げられると力を失くしたペニスもまだ乾かない蟻の戸渡りも、その先の窄まりも丸見えになる。さんざ舐られて一度精液を吐き出した頭はそれでも離さず啜り続けられたせいで赤くなっていた。
「出ねぇよ!離せもう食うな」
「人聞き悪ぃな、食うわけあるか」
「ほとんど食ってるだろ、やめろっつってんだ、このすけべ」
言う間にも振りほどこうと足を蹴り上げるがもう片方まで足首を捕まえられてしまう。膝を折られ、股座に寄せられる厚かましい顔を両手で阻めば煙で対抗された。
「大丈夫だまだ一回だろ、出る」
口論の間に少しだけ休んだとはいえ達したばかりのものを舐めまわされるのは辛い。それなのに、あっとこぼれた声は明らかに濡れている。
「や、ぁあっ、やめ、やめろむりっ、ひっ」
でかいくせ、括れを挟んでちゅるちゅると出し入れする上唇と舌が無駄に器用でむかむかする。だがそれをぶつける術がない。煙を使うなど反則だ。減らず口は喘ぎ声に変わる。敏感なところをしつこく撫でくり回されて。
唾液をまぶされ何度も扱かれると腹の奥でじわりとダメな感じが膨らみ始める。中を暴かれるときに執拗に押し込まれる前立腺の、内側。
「だめって、言っ、あっあう、言ってんだろ、やめろ出るっ」
「ほら出るんじゃねぇか」
そうじゃない。そうじゃないのに確かに出そうで、諦め悪く足に力を込めるがびくともしない。違うもんが出るんだよ馬鹿やろう。追い詰められるその先で何が決壊するかは見えていて、だからこそ避けたいのに。
スモーカーはおよそ正義の味方、海軍将校に似つかわしくない悪辣な顔をして、トドメとばかりに、怯える陰茎をぱくりと含んだ。
「んあぁっ、あ、でる、くそっ、おま、おまえが出させんだ、からなっ、や、ぅんん、ちくしょっ、溢すんじゃねぇぞっ」
大きな口を全部使って亀頭から根本までじゅるじゅると擦られ、上下に跳ねる腰を止められない。突き上げるのに合わせてぐんぐんせり上がってくる衝動を、飲み込む仕草でぐにぐに動く喉奥に向かってぶちまけた。
「っあぁあ――――っ」
さっき出したものとは粘度の異なる、さらりとした体液が、さっきより勢いよくスモーカーの口内を濡らす。ビールでも飲むようにごくごくと喉を鳴らしながら、その動きでさらに雁首まで揉むようにする男は一滴もこぼさない。ローは何度もスラングを吐いて、溶けてしまいそうな腰を断続的に振った。
何も出なくなってようやく、搾り取るように吸い上げてからスモーカーは口を離した。ローは視界のあちこちで散る白い火花に頭を振り、浅い呼吸で狼藉者を睨む。
「出たじゃねぇか」
そう言って男が今度は上の口に寄ってきたものだから、ローは唯一動く首を思い切り白髪の落ちた額に打ち付けてやった。
「い゛っ……!」
煙の仕返しに覇気を込めてやったそれは自分の頭も痛めたが、的確にダメージを与えたようで、ぶつけられたところを押さえたスモーカーがシーツに沈む。
「ざまっ、みろ変態……!」
手足を取り返したローが右手の中指を立てる。しばらく唸っていた将校は紅目を怒りで燃やして起き上がり、再びローの足首を握った。
「いい度胸してるじゃねぇか、ロー。その調子なら、おかわりだな」
歪んだ口元が本気の時の形になっていて、思わずローは股間を両手で覆ったがそんなものは。次はてめぇに飲ませてやる、と舌なめずりした男は、もうヒトの形をしていなかった。
何を書くんだったか忘れた書き出し-テスト投稿
春先に着る服は持っていなかった。薄手の羽織るものをなにか、と思いながらもショップに行く面倒くささに負けている間にじりじりと焼かれるような日差しになって、そうすればあっという間にシャツ1枚、よれたTシャツ、タンクトップと移り変わり、部屋では半裸で過ごすようになるからだ。
職場では服を支給されているし、休みの日は泥のように眠るだけ。だから手元にあるまともな服といえば、秋口にキッドが買ってきた落書きみたいなハイネックぐらいのものだった。
滅多にない待ち合わせにジーンズとそれを着て行って相手に微妙な顔をされるまで、何とも思ったことはなかった。